<日露首脳会談>北方領土交渉、加速提案へ 首相が来週
安倍晋三首相は、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に合わせてシンガポールで来週開く日露首脳会談で、平和条約締結に向けた北方領土交渉の加速を提案する調整に入った。複数の政府関係者が明かした。条約締結後の歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言の確認から入り、国後、択捉2島の帰属問題を詰めたい考えだ。来年6月に予定するプーチン大統領の訪日時の大枠合意を目指すが、ロシア側の出方は見通せていない。
首脳会談は9月のロシア極東ウラジオストク以来2カ月ぶり。プーチン氏はこの際、首相と同席した経済会議で「前提条件抜きに、年内に平和条約を結ばないか」と提案した。日本政府は「4島の帰属問題を解決し、平和条約を結ぶ」との立場だ。首相は会議後、プーチン氏に「受け入れがたい」と拒否を伝えた。
一方で、首相は提案を「平和条約締結に向けた熱意の表れだ」と一定の評価をしている。「戦後外交の総決算」を掲げる首相は9月、自民党総裁選の討論会で「11月の首脳会談が重要になる」と語っており、今回の会談で今後の領土交渉の道筋をつけたい考えだ。
日本政府は、2016年に交渉開始で合意した北方領土での「共同経済活動」を実現させ、領土問題につなげる構想を描いていた。日露はウラジオストクで、共同経済活動のスケジュール感を盛り込んだ「工程表」を確認しており、日本側は一定の前進があったと判断。首相は21年までの党総裁任期をにらみ、領土交渉を急ぐ必要があると判断した模様だ。
日露間には、旧ソ連時代を通じ、双方の議会で批准された唯一の文書「日ソ共同宣言」がある。宣言では「平和条約締結後、ソ連は歯舞、色丹両島を日本に引き渡す」と規定。プーチン氏は一時期、宣言の有効性を認めたが、その後は領土交渉そのものに慎重な姿勢に転じている。安倍政権は、まず宣言を再確認することがプーチン氏の理解を得やすいとみている。
首相は8日、北方領土問題に詳しい鈴木宗男元衆院議員と首相官邸で面会し、「自分の手で平和条約を締結すると常々言ってきた。考えに少しの後退もない」と強調した。政府内には、日ソ宣言を根拠に、歯舞と色丹2島の「先行返還論」などもある。政府は国内世論に根強い「4島返還論」の動向をにらみつつ、ロシアとの協議を慎重に進める方針だ。